特別インタビュー 第1回

ロボットクリエイターの仕事、ロボカップの魅力、そして将来のサイエンティストたちへ

ロボットクリエイター 高橋智隆さん

「西暦2050年までに、FIFA World Cup のチャンピオンチームに自律型ヒューマノイド・ロボットのチームで勝利する」。そんな壮大な夢を目標に掲げたロボットの世界大会「RoboCup」(以下、ロボカップと表記)。2021年はアジアパシフィック地域の大会「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」が2021年11月25日(木)から11月29日(月)まで愛知のAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で開催される。
日本を代表するロボットクリエイターのひとり、高橋智隆さんはかつてロボカップ世界大会に5年連続で出場し、チームが5連覇を成し遂げた実績を持つ。公式スペシャルインタビュー第一弾は、輝かしい経歴を持つ高橋智隆さんにロボカップや子ども達の育成について聞いた。

ロボットクリエイターの高橋智隆さん。シャープのロボホンと、東京大学先端科学技術研究センター内の高橋研究室にて。

ロボットクリエイターの高橋智隆さん。シャープのロボホンと、東京大学先端科学技術研究センター内の高橋研究室にて。

高橋さんが手がけたロボットは、シャープの「RoBoHoN」(ロボホン)、デアゴスティーニの「週刊ロビ」、ロボット宇宙飛行士「Kirobo」(キロボ)、パナソニックの「エボルタ」など多数。ロボット業界では、目がキョロっとした独特なデザインは「高橋デザイン」と呼ばれ、親しまれている。

デアゴスティーニ・ジャパンから発売された「ロビ」シリーズは累計で15万体以上が販売され、コミュニケーションロボットの金字塔をうちたてた。(写真は「週刊Robi2」の発表会にて:著者撮影)

デアゴスティーニ・ジャパンから発売された「ロビ」シリーズは累計で15万体以上が販売され、コミュニケーションロボットの金字塔をうちたてた。(写真は「週刊Robi2」の発表会にて:著者撮影)

高橋さんは計4個のギネス世界記録も持っている。最近では2018年12月に「乾電池を動力にしたロボットが泳いだ世界最長距離」として認定された。また、2004年には高橋さんが制作したロボット「クロイノ」が米タイム誌で「最もクールな発明」に選ばれ、ポピュラーサイエンス誌では「未来を変える33人」に選出された。
これらの輝かしい経歴を持つこの高橋さん、実はロボカップ世界大会に出場した経験がある(TeamOSAKAの一員として)。2004年は初出場にして初優勝。「ルイ・ヴィトン ヒューマノイドカップ」を手にした。これはヒューマノイドリーグの優勝者に授与されるバカラ社クリスタルグラス製の優勝カップ。ヒューマノイドロボットが世界一を競うサッカー大会において、特別な意味を持つカップと言えるだろう。
以来、TeamOSAKAは2005年~2008年まで連続して世界大会で優勝。2008年には、ロボカップ世界大会5連覇を達成した栄誉に対し、大阪市長よりTeamOSAKAに特別表彰を授与した(TeamOSAKAは2008年の優勝を最後に解散)。

世界的に注目されるきっかけとなった「クロイノ」。(ロボガレージ公式ホームページより)

世界的に注目されるきっかけとなった「クロイノ」。(ロボガレージ公式ホームページより)

ロボットクリエイターとはどんな仕事?

ロボカップはとてもいい経験と思い出をくれました

編集部
高橋さんは「クロイノ」が注目された2004年にロボカップに初出場、それからチームは5年間優勝し続けました。ロボカップに出場したきっかけとその頃のロボカップはどんな状況だったのか教えてください。

高橋さん
当時、大阪大学の石黒浩教授が開発中のロボットをお手伝いすることになって、その打合せの中で、「2005年にロボカップが大阪で開催されることになり、公式主催地チームの公募があるので、ヴイストンや石黒研究室と共同チームを結成し出場しないか」という誘いを頂いたのがきっかけです。 それまで、ロボカップのことはある程度知っていましたが、実はロボコン的な大会には出たことがなかったので、その時はこんなに楽しく、そして厳しいものだとは想像もしていませんでした。

編集部
引き受けた理由は?

高橋さん
私はちょうど「クロイノ」を開発中でした。ヴイストン取締役の前田さんが趣味でラジコンサーボ用の小型マイコンボードとプログラミングをするためのエディタを試作していて、それをクロイノに搭載したかったんです。それで、その試作品を譲ってもらうことを条件に、ロボカップ参加を決めました(笑)。

編集部
ロボットコンテスト自体が初めての出場だったのに、世界大会でいきなり優勝したということですよね

高橋さん
当時はヒューマノイドリーグができて数年しか経っていなかったこともあり、正直に言うと出場チーム全体の技術レベルは低かった。競技内容も、サッカーと言ってもPK戦、1対1のゲームのみでした。ゴールキーパーもボールに反応できるようなロボットはほとんどなくて、ただ立っているだけ、寝ているだけ、というような状況でしたが、そもそもちゃんと歩いてボールを蹴れるロボットがほとんどいないので、それで良いわけです(笑)。

編集部
ロボカップではチーム内でどのような役割を担当しましたか?

高橋さん
ヴイストンさんが主体になり、私は全体の監修と外装パーツの制作などを行っていました。初年度2004年ポルトガル世界大会に行ったのは、かろうじて社会人の私と石黒研究室の学生2名と合計3名でしたので、私が引率しなければいけない立場でした。現地に到着しても会場は工事中の上、仕様通りに作られていないし、出場者側もレギュレーションを逸脱したロボットを作ってくるチームがいるなどハチャメチャな状態で、驚きの連続でしたね。

編集部
一番難しかったのはどういう点ですか?

高橋さん
難しかったというか、当時からやはり重要だったのはロボットの視覚となるカメラ機能の調整でした。また、そもそもロボットが安定して歩いたり、ボールを蹴ることも決して簡単ではありませんでした。それでも周囲と比べて技術的に頭ひとつ抜きんでていた印象で、無事に優勝することができました。最近はパンチカーペットから人工芝にルール変更があって、もっと難しくなっているでしょうね。

ロボットクリエイターの高橋智隆さん。シャープのロボホンと、東京大学先端科学技術研究センター内の高橋研究室にて。

編集部
初出場・初優勝から5連覇を達成しましたが、その道のりも楽勝だったのですか?

高橋さん
ロボカップでは優秀な機体が登場すると、翌年には他チームも似通ったロボットを作ってきます。そのため、自分たちも前年機体より高性能なロボットでのぞむ必要があり、初年度のように簡単には勝てなくなりました。毎年、常に進化が求められるのです。
例えば、長時間稼働していると、ロボットのモーターに負荷が掛かり、発熱してうまく動けなくなります。そこで、もっとよいサーボモーターが開発出来るのではと、自作のサーボモーターを組み込んだロボットで大会にのぞみましたが、想定通りの性能が出ず、苦労しました。逆に、うまくいったのは、今ではほとんどのチームが採用している「平行リンク構造」のパンタグラフのような脚の仕組みです。ヴイストンの大和社長が考案した発明で、2007年に開発した「VisiON4G」で初めて採用しました。歩行時に膝に負荷が集中することを避けられると同時に、モーターがへたばってきたときにも、後傾してさらに膝に負荷が掛かるという悪循環を防止出来る、画期的なアイデアです。
このように、我々のチャレンジによって競技レベルが進化していったという自負があり、ロボカップ、ひいてはロボット分野全体に貢献できたと感じています。

ロボット教室で子ども達にロボットの魅力を伝える

高橋さんはヒューマンアカデミーロボット教室の顧問もつとめている。ロボット教室では毎年、全国大会が開かれ、2019年も東京大学大講堂(安田講堂)にて開催された。全国24,000名を超える生徒の中から、全国6ヶ所の地区大会(仙台・東京・名古屋・大阪・広島・福岡)を勝ち抜いて、予選審査を通過した33名と、中国大会を勝ち抜いた中国代表2名、初参戦のベトナム代表選手1名の計36名が全国大会に進んだ。

ヒューマンアカデミー社のロボット教室 全国大会の様子 (写真提供:ヒューマンアカデミー)

ヒューマンアカデミー社のロボット教室 全国大会の様子 (写真提供:ヒューマンアカデミー)

編集部
高橋さんが顧問をしているヒューマンアカデミーのロボット教室では多くの子供たちがロボットについて学んでいると思いますが、子ども達が成長していく上で重視している点やポイントのようなものはありますか。

高橋さん
公教育や大学のカリキュラム的に、過度に効率的・体系的にならないように気を付けています。そうなった瞬間に、多くの子ども達は「つまらない」「難しい」と拒絶してしまう。例えば最初から、モータの回転する原理についての座学や、センサの仕組みを知る実験装置を作らされたら、そりゃ嫌になりますよね。そうではなく、恐竜やカブトムシなどのロボットを作り、その中で子ども達が自発的に興味・関心を持って学び始める、そんなカリキュラムになっています。そんな「遊びのような学び」が理想だと思っているのですが、世の中の勉強は「楽しくないから学べてもいない」という結果になりがちです。

編集部
なるほど。全国24,000名を超える生徒たちがロボット教室で学んでいることが既に大きな実績と言えますね。

高橋さん
ロボット教室は当初より、規模の拡大、スケーリングを重視してしくみを考えました。質の高い教育を多くの子どもたちに提供するには、規模が重要です。それはどんな商売でも同じだと思います。 それまでのロボット教室やプログラミング教室は、1人の優秀な先生が数人の子ども達を教え、育て上げるというしくみでした。それはごく限られた子ども達に、かつ短期的には理想的かも知れませんが、スケールメリットがないため、カリキュラムを充実させることが出来ない。「ロボティクスやプログラミングの専門家の先生が必要」だったり「教室に生徒数分のパソコンや工具が必要」だと、普及・発展していかないのです。なので、我々は、一般の学習塾の環境と先生たちで運営していけるように教材を作り、気軽にロボット教室が世界中どこでも開設できる、ことを重視しています。2020年から小学校でプログラミング教育が必修化になることもあって、子どものロボット教育への関心は急速に高まっています。子ども達に人気のロボットを活用して学ぶ事で、プログラミングのみならず、論理的思考力、空間認識能力、デザインセンスなどが養えます。既にロボット分野だけでなく、多くの理系分野で活躍する人材を輩出しています。

編集部
高橋さんは全国大会の審査員もしていますが、発想などで関心した例があれば教えてください。

高橋さん
これは全国大会優勝作品のダンゴムシロボットです。ダンゴムシにはたくさんの脚がありますが、モーターはひとつだけです。ダンゴムシにはいくつも節があるので、これを歩かせるには、それら可動式の節を超えて動力を伝達していく必要があります。大人だったりすぐに「無理だな」と諦めてしまったり、「モーターをたくさん付けよう」と考えると思います。でも、このロボットはひとつのモーターでそれを実現し、更にモーターを逆回転させること、身体を丸めてボール状になります。こうした天才の発掘はとてもエキサイティングなことです。そして、もちろん世界中全ての子ども達の能力底上げにも貢献しています。それは「IT版公文式」のようなものだと考えています。

高橋さん「大人でもこのしくみはそうそう発想できない」

高橋さん「大人でもこのしくみはそうそう発想できない」

編集部
その中から、将来のサイエンティストやロボットクリエイターがたくさん誕生するといいですね。

高橋さん
ロボット教室卒業生の中から、ロボカップに出場したり、大学の工学部や高専に進む子ども達が出はじめています。やがて彼らと一緒にロボット開発をする日を、楽しみにしています。

編集部
最後に、ロボカップ参加者、観戦する予定の人たちにひと言お願いします。

高橋さん
ロボカップの最大の魅力は、競技を通じて生み出された技術やイノベーションが、ほかのチームにも共有されて、ロボティクス技術全体が進歩していくことです。また、ロボカップメンバーによって創業したKiva Systems社がアマゾンに買収され(現Amazon Robotics)、物流倉庫で活用されているように、実社会のサービスや製品として技術が実用化されています。世界中の研究者や学生、ロボットファンが、ロボカップを通じて交流していることは、本当に素晴らしいと感じています。

高橋智隆さん プロフィール


たかはし ともたか。日本を代表するロボットクリエーター。株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長。東 大学先端科学技術研究センター特任准教授、大阪電気通信大学総合情報学部客員教授、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問、グローブライド株式会社社外取締役。携わったロボットは「ロボホン」「ロビ」「エボルタNEO」「キロボ」「ソータ」「ヴィジオン」など多数。

※ギネス世界記録®はギネスワールドレコーズリミテッドの登録商標です。
※商品名やサービス名は各社の商標、または登録商標です。

特別インタビュー 第2回

コロナ禍で求められるロボカップ関連の最新ロボティクス技術

ロボカップアジアパシフィック2021あいち開催委員会副会長 岡田浩之さん

ロボカップアジアパシフィック2021あいち開催委員会副会長 岡田浩之さん。コロナ禍で求められるロボカップ関連の最新ロボティクス技術

ロボカップは「2050 年までに、ワールドカップサッカーのチャンピオンチームに自律型ヒューマノイドロボットのチームで勝利する」ことを目標に、ロボットやAIなどの先進技術の進歩や発展を目指した国際的なロボット競技大会だ。1997年に第一回が愛知県で開催され、それ以来、毎年、世界を転戦して開催されてきた(コロナ禍の2020年を除く)。
そして2021年、アジア太平洋地域を対象とした国際大会「ロボカップアジアパシフィック(RCAP)」が日本で初めて開催される。 

参考写真「ロボカップ2017名古屋世界大会」より 人間を模した二足歩行ロボットでサッカーをするヒューマノイドリーグ

参考写真「ロボカップ2017名古屋世界大会」より 人間を模した二足歩行ロボットでサッカーをするヒューマノイドリーグ

今回は「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」開催委員会副会長の岡田浩之さんに話を聞く。
岡田浩之さんは、玉川大学の「学術研究所先端知能・ロボット研究センター」の主任教授。「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」開催委員会副会長の他にも、ロボカップ日本委員会の会長、経済産業省が主催する「World Robot Summit(WRS)」サービス競技委員会の委員長も務めている。
1997年のロボカップの立ち上げから関わり、自身もロボカップ世界大会に出場、2008年の中国大会と、2010年のシンガポール大会の「@ホーム(アットホーム)リーグ」で優勝に輝いている。

早速、玉川大学にある岡田浩之さんの学術研究所先端知能・ロボット研究センターを訪ねた。緊急事態宣言が解除された後だったため、ロボット研究センターには学生達が集まり、ロボットの設定や操作をしたり、プログラミングの授業がおこなわれていた。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターの学生達

学術研究所先端知能・ロボット研究センターの学生達

今年のロボカップアジアパシフィック大会はハイブリッド開催に

ロボカップは世界大会、アジアパシフィック大会、ジャパンオープンがありますが、それぞれの位置付けを教えてください。

岡田さん
ロボカップは「ロボカップ世界大会」を頂点として、地域別(リージョン)の大会としてアジア太平洋地域を対象とした「ロボカップアジアパシフィック(RCAP)」、日本国内の大会として「ロボカップジャパンオープン」があります。競技内容はどの大会もほぼ同じですが、ジャパンオープンからRCAPや世界大会に進出するしくみは、カテゴリーによって異なります。
昨年は新型コロナ感染症の影響で、残念ながら世界大会は中止になりました。RCAPとジャパンオープンはリモートでできるカテゴリーの競技のみが開催されました。例えば「ロボカップジュニア日本大会2021オンライン」も初めてオンラインの大会となりましたが、全国から150チーム、375名が参加するビッグイベントとなりました。

編集部
今年は「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」が、2021年11月25日(木)から29日(月)まで、「Aichi Sky Expo」(愛知県国際展示場)で開催される予定ですね。「ハイブリッド開催」も視野に入れて検討されていると聞きました。

岡田さん
はい。現時点(取材日:4月22日)では、出場チームが会場に集まって競技をおこなう通常の開催が予定されています。それが理想ですが、コロナ感染症の状況を考えると、通常開催ができない場合も考慮しなくてはなりません。そのため、オンラインでの参加や観戦ができるようにも検討と準備を併行して進めています。それが「ハイブリッド開催」という意味です。
現地に来て競技できるチームはリアルで参加し、現地の参加が難しいチームはオンラインやリモートで参加するという開催になるかもしれない、そういうケースを想定しています。
※2021年6月28日、現地(オンサイト)とバーチャルの「ハイブリッド開催」を発表。

最新/最先端技術で競うロボカップに向けた研究・取組み

編集部
ロボカップの競技の歴史は1997年に第一回が愛知県で開催されスタートしました。岡田先生はその頃からロボカップに関わってきました。

岡田さん
ロボカップが始まった当時、私は企業に勤めていたので、海外を自由に飛び回って出場するような時間がとれず、メンバーを募ってチームを作るのも困難な状況でした。そんなこともあって、ロボット研究を自由にできる環境を求めて東海大学の教授になり、学生たちの有志を募ってロボカップに出場しようと考えました。大会ではソニーの「AIBO」でサッカー競技をおこなうカテゴリーに出場しました。ただ当時は専門が数学科だったこともあり、ロボカップに出たいという学生が少なく、メンバー集めには苦労していました。
その後、認知科学や認知発達ロボティクスの研究で玉川大学から声を掛けられ、ここに移ってきました。ここではロボットに興味がある学生たちがたくさん集まってきたこともあり、専門の「認知発達ロボティクス」の研究のひとつとしてロボカップに新設された@ホームリーグに出場することにしました。「eR@sers」(イレイサーズ)というチームを結成し、以来ずっと@ホームリーグに出場し続けています。2008年と2010年には世界大会で優勝することができました。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターの学生達

「ロボカップ2017名古屋世界大会」では岡田さん率いる「eR@sers」は第2位となった

編集部
今日もたくさんの学生がロボットと向かい合っていますね。

岡田さん
はい。ロボカップに興味がある学生もいれば、ドローンやDJIのRoboMasterなどに興味がある学生もいます。ただ、コロナ禍で授業がまたオンラインになると、こうして集まって授業を受けたり、みんなであれこれ相談しながらロボットをいじることは難しくなりますね。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

編集部
コロナ禍でロボカップや大学の授業にどのような変化が起こっていますか?

岡田さん
ロボカップの競技面で言うと、「実機」競技では現場でロボットを動かすことが中心でしたが、コロナ禍でリアルに集まることが難しい事態になり、シミュレータを使った仮想空間でのロボットの操作にも必然的に注力するようになったと思います。 大学の授業も緊急事態宣言を受けてリモートが主体になりました。研究センターもロボットをじかにいじることができず、リモートでロボットを操作したり、セッティングできる環境づくりに力を入れています。

編集部
社会とロボットの関わり、ロボカップとの関連についてお聞きしたいのですが、コロナ禍でロボットやロボカップ関連の最先端テクノロジーの必要性の高まりなどはいかがですか?

岡田さん
産業界では、コロナ禍で業務の自動化や効率化、人との接触機会を減らすことなどが注目されていて、そこにロボットの導入が期待されています。ひとつの例が配膳ロボットです。焼き肉屋さんなどでは、注文した食材を自律移動ロボットが運んでくる光景を見るようになりました。清掃ロボットや配送ロボットの導入を検討する企業や団体も増えています。
これらのロボットには、カメラを使った画像認識、センサーを使ったマッピング、自律走行(自動運転)や遠隔操作などの要素技術が活用されています。それらはロボカップでも様々なカテゴリーの競技を通して開発され、活用、研鑽されてきたものばかりです。

編集部
ロボカップの競技で研鑽されてきた要素技術は、社会で使われているサービスロボットにも必要とされているのですね。

岡田さん
例えば、@ホームリーグは、日常生活でロボットの利用を想定し、リビングルームやキッチンなどの家庭環境で、いかに人間との暮らしに役立つ作業ができるかを競う競技です。ドアを開閉したり、モノをつかんだりといったロボットアームやマニピュレーション技術、ロボットが人を追尾したり、ぶつからないで移動したり、モノのカタチを認識・判別して片付けたり、ロボットと人が自然にコミュニケーションして指定された物を運んで来るなどの要素があります。それらの技術はまさに今、配膳ロボットや清掃ロボット、自動配送ロボットなどに使われている重要な技術です。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

@ホームリーグでは、ロボットが自律移動して、机や棚にある物を判別して把持、競技者の元に運ぶ競技などで競われる

ロボカップが始まったとき、カテゴリーは「サッカー」競技だけでした。阪神淡路大震災などを経験し、レスキュー活動にロボティクスを活用すべきという声から「ロボカップレスキュー」がカテゴリーに追加されました。また、掃除や片付けなどの家事、介護など、社会生活におけるサービスロボットの必要性から、2007年に「@ホームリーグ」が新設されました。

(参考写真) ロボカップレスキューは災害現場を想定して、ロボットは悪路を自律と遠隔操作で進む

(参考写真) ロボカップレスキューは災害現場を想定して、ロボットは悪路を自律と遠隔操作で進む

そういう経緯を見ても、ロボカップは社会課題と強く関わり、運動能力、遠隔操作や自律移動、会話など、産業界にフィードバックできる最先端のロボティクス技術を競い、培ってきたのです。コロナ禍で社会がニューノーマルへの変革を求めれば、それに対応するための課題がロボカップには盛り込まれていくでしょう。

「ロボカップアジアパシフィック2021あいち」の開催について

岡田さん
今回、ロボカップアジアパシフィック(RCAP)が初めて日本で開催されます。アジア太平洋地域は、日本、中国、韓国などロボットの開発や実用化に力を入れている国が多く、とても勢いがあります。RCAPはそんなロボット業界の勢いを世界に示すとても重要な大会だと感じています。ジュニアカテゴリーを含めて、ロボットの研究者たちが競う大会を、ロボカップ発祥の地でもある愛知県で開催できることをとても誇りに思っています。
愛知県には自動車やロボット関連の企業や工場が多く、最新技術の開発や実証実験にも積極的です。サービスロボットの社会実装を促進するための実証実験の場として愛知県サービスロボット社会実装推進事業「あいちロボットショーケース事業」を2019年度から実施しています。
また、今年のRCAPの成果を継承するため、モノづくり現場の自動化を担うロボットシステムインテグレータ(ロボットSIer(エスアイアー))の人材創出を目的に、全国の高校生を対象とした競技会を2022年度から毎年実施していく予定も先日発表されました。
愛知県から日本中に、そしてアジア太平洋地域に対して、ロボットの勢いを発信していくことはとても重要だと感じています。

関連ページ
愛知県サービスロボット社会実装推進事業
https://aichirx.jp/
【知事会見】高校生ロボットシステムインテグレーション競技会実行委員会を設立します
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/robotconv/robotsileague-20210412.html

編集部
コロナ禍でリモートやオンラインの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)が注目されていますが、ロボカップでは遠隔操作やリモート技術の実施については、どのように検討が進められているのでしょうか?

岡田さん
ロボカップでは以前から、サッカーとレスキューについては仮想空間でのシミュレーション競技が実施されています。ハイブリッド開催に伴って、今後は@ホームリーグにもリモートやシミュレーションの導入を検討しています。
カテゴリーごとにそれぞれ検討していますが、例えば@ホームリーグの場合、オンラインについては2つの案で検討を進めています。ひとつは、競技のルールと課題に沿って研究室や自宅でロボットを動かし、そのオンライン映像から審査員が審査する形式です。
もうひとつはシミュレータによる競技です。実機での環境をそのままシミュレーションするものを目指してシミュレータを開発しています。

RCAPに向けて開発中のシミュレータ画面を見せてもらった。元はトヨタ自動車が開発していたシステムで、オープンソースとして公開されたため、岡田さんが指揮をとって@ホームリーグのリモート向けに開発しているシステムだ。

シミュレータ画面には、取材した研究センターを模した環境が仮想空間で再現されている。競技用ロボット「HSR」をリモート操作で実機と同様の動きさせることで、仮想空間での競技を実現する。

シミュレータ画面には、取材した研究センターを模した環境が仮想空間で再現されている。競技用ロボット「HSR」をリモート操作で実機と同様の動きさせることで、仮想空間での競技を実現する。

岡田さん
すべてのチームが全員集まって大会が開催されることが理想ですが、コロナ禍ではそれが許されない状況も考えられます。例えリアルで開催できなくても、オンラインやリモートで競技する方法をカテゴリーごとにそれぞれ検討しています。また、コロナ禍で遠隔からの操作に対する期待も高まっていますので、@ホームリーグでも遠隔操作の技術を競う要素を加えていく予定です。ロボットが自律で判断して動ける状況であれば、どんどんと作業をこなす一方で、人が判断したり操作の介入が必要な場合は遠隔に切り換えて作業を継続するのです。
ロボカップレスキューの実機リーグでは、災害現場をロボットが自律動作し、もしも動けなくなったり、どう動くべきかが解らなくなった場合は、人が遠隔から操作して難局を乗り切ることができます。レスキューではそのようなリモート操作が重要な技術のひとつとして確立していますが、他のカテゴリーでも同様にニーズが高まっていくと感じています。

編集部
これから先は、どのようなロボティクス技術が重要になりますか?

岡田さん
個人的には「ヒューマンロボットインタラクション」関連の技術のニーズが更に高まると考えています。音声によるロボットとの対話、ジェスチャーでのやりとりなど、マルチモーダルなコミュニケーションです。
例えば、@ホームリーグではロボットに言葉で指示を伝えたり、手招きやジェスチャーで移動する方向を指示したり、複数の人の中から手を振っている人をロボットが判断してその人に指定された物を届けるなど、既にマルチモーダルな「ヒューマンロボットインタラクション」を取り入れています。しかし、実用に満足できるレベルにはまだ達していません。
ロボットには人と協働し、共存していくことが求められています。今後は他のカテゴリーを含めて、ロボカップの競技全般に「ヒューマンロボットインタラクション」を取り入れる検討が更に進んでいくのではないでしょうか。

岡田浩之さん プロフィール


日本を代表する認知発達ロボティクスの研究者。玉川大学 学術研究所先端知能・ロボット研究センター主任教授。特定非営利活動法人ロボカップ日本委員会会長、World Robot Summit実行委員会委員兼サービス競技委員会委員長、日本ロボット学会フェロー、日本赤ちゃん学会常任理事、日本認知科学会常任運営委員など

特別インタビュー 第3回

病院や介護施設で活躍するロボット最前線

藤田医科大学

藤田医科大学 ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センター(RSH&AATセンター)のスペース 手前に見えるのはトヨタ自動車の生活支援ロボット

藤田医科大学 ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センター(RSH&AATセンター)のスペース 手前に見えるのはトヨタ自動車の生活支援ロボット

医療や介護の現場ではどのようなロボットが既に導入され、どのようなテクノロジーが必要とされているのか。未来の医療現場やスマートホームではどんなICT技術が活躍するのだろうか。藤田医科大学 ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センター(RSH&AATセンター)のセンター長 大高先生と、副センター長 田辺先生に聞いた。

参考写真「ロボカップ2017名古屋世界大会」より 人間を模した二足歩行ロボットでサッカーをやるヒューマノイドリーグ

右 藤田医科大学 ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センター センター長 大高 洋平氏
左 藤田医科大学 同センター 副センター長 田辺 茂雄氏

藤田医科大学病院で活躍するロボットたち

編集部
藤田医科大学病院ではどのようなロボットが既に導入されていますか?

大高先生
藤田医科大学病院で導入されているロボットとしてはまず手術支援ロボットがあります。医師の外科手術/腹腔鏡手術を支援するロボットで、世界的に有名なのが「ダビンチ」です(Intuitive Surgical社製)。手術器具や内視鏡を取り付けたアームが搭載されていて、医師は手術室内でロボットを遠隔操作して、癌などを摘出します。当院は全国に先駆けてダビンチを導入し、現在までに2,800を超える手術実績があります。
また、メディカロイド社が開発している日本初の国産手術支援ロボット「hinotori」(ヒノトリ)の開発協力もおこなっています。「hinotori」のトレーニングを支援したり、遠隔手術等の研究や実証実験をおこなったりする施設を学内に開所しています。これまでに、約30㎞離れた病院間を専用高速回線でつないで、実用的な遠隔手術の実証実験を行いました。

国産の手術支援ロボット「hinotori」(ヒノトリ) 

大高先生
また、コロナ禍で活躍しているのが川崎重工製「自動PCR検査支援ロボットシステム」で、日本で初めて導入しました。病院総合玄関ロータリーに設置されたコンテナ内に検体を投入すると、ロボットがPCR検査から解析まで全自動で行います。

川崎重工製「自動PCR検査支援ロボットシステム」

大高先生
その他には「自動調剤ロボット」があります。当院では、処方する薬の約7割を院内で調剤していて、その数は1日平均約1,500人分にのぼります。膨大な種類の中から処方された薬を探して取り出したり、加工したり、患者ごとにトレーに入れる作業を自動調剤ロボットがおこなっています。作業スピードを改善できる、取り違えのミスを防げる、などと評価されています。

自動調剤ロボット

編集部
リハビリテーション(以下、リハビリ)の分野ではどのようなロボットが使われていますか?

大高先生
藤田医科大学病院は、約1,400の病床がある日本でも最大規模の病院です。リハビリ科専用のベッドだけでも60床(※)あり、なおかつ病院内の入院患者全体の4~5割くらいが常時リハビリを受けています。たくさんの人たちがリハビリを必要としている中で、ロボットを導入して効果的な治療を提供するとともに、患者さんの状態を定量的に評価して情報共有し、次のリハビリに繋げていくことが重要になっています。(※関連する4つの病院や施設も含めると210床のリハビリ用のベッドがある。)

学術研究所先端知能・ロボット研究センターの学生達

RSH&AATセンター内にある研究開発用の模擬寝室環境

田辺先生
リハビリでもロボットは既に重要な役割を担っています。2015年5月に当院内に開設されたリハビリテーションセンターでは、トヨタ自動車など多くのメーカーや組織が、産官学連携でリハビリ用のロボットを開発しています。様々な目的を持つロボットが常時臨床の現場で稼働中で、患者さんの障がいや状態に合わせて最適なものを選んで使用しています。 ロボットを使ったリハビリは、米国や日本の診療ガイドラインに記載されるようになり、世界的に有効性が認められています。例えば、トヨタ自動車の「ウェルウォーク」は、脳卒中などによる下肢麻痺の方の歩行練習を支援します。「患者自身の力」を最大限に引き出すことができ、回復のスピードを短縮することが期待されています。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

トヨタ自動車のリハビリテーションロボット「ウェルウォーク」(写真はモデル「WW-2000」)

田辺先生
また、歩行補助ロボット「WPAL」の開発にも携わっています。これは、脊髄損傷などによって両脚が麻痺している方に歩く機会を提供する自立支援ロボットで、ロボットシステム事業を手掛けるアスカや義肢装具の製作販売を行う東名ブレースなどとともに開発をしています。ロボットの支柱を両脚の間のみに配置するという新しい発想のもので、車椅子の上でご自身で装着できます。装着すると、足が麻痺しているにも関わらず立ってバランスをとることができ、日常生活や仕事場での作業の一部を行うことができます。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

歩行補助ロボット「WPAL」(ウーパル)

ロボット導入によってリハビリ期間が短縮されたり、練習の効果が上がったり、活動範囲が広がるなどのメリットがありますが、「リハビリ治療を定量的に判断できるようになる」ということもとても重要です。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

大高先生
手だけを使って治療して、その効果を目で見て確認するリハビリの時代から、画像やデータを活用して治療の度合いを定量的に判断する時代に変わってきています。ICT技術を導入することで治療に関する膨大なデータが収集できるので、進行度が見えるとともに、リハビリの構造化や標準化ができるようになります。これは医療の未来にとってとても重要なことです。

「未来の家」のテクノロジー

編集部
RSH&AATセンター(ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証センター)の役割について教えてください。

大高先生
元々は、高齢者などができるだけ長く快適に住み慣れた自宅で生活できるよう、テクノロジーが支援する「未来の家づくり」を推進するために設立しました。現在は、愛知県の「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期」などを通して研究開発を進めています。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

RSH&AATセンターの入口

編集部
「未来の家」にはどのようなテクノロジーが実装されるでしょうか。

大高先生
例えば「IoTベッド」です。ベッドにセンサーを搭載することで、ベッドにいるかいないかを判別したり、危険な行動を判定したり、睡眠時間を測定して記録したりできます。将来的には部屋にセンサーを設置することで、プライバシーを保護した上でトイレの回数を記録したり、心拍数や体温、血圧なども測定できたりするようになるでしょう。
これらのテクノロジーは病院や介護施設でも有効です。患者さんや入居者の状態をセンシングして自動的に記録できれば、スタッフはより重要な他の業務にあたることができます。また、スタッフが常時見守りしていなくても、カメラの画像からAIが離床や危険な行動をスピーディに察知したり、転倒の危険性を予測してスタッフに通知したりすることができれば、事故の防止や早期発見につなげられるようになるかもしれません。夜中の看護師の見回りの際に、患者さんが起きてしまうことも減らせるでしょう。

病院や施設と、ロボット開発メーカーをマッチング

編集部
RSH&AATセンターは、国や県からのロボット社会実装に関わる事業委託で政府や愛知県と連携していますね。

大高先生
はい。行政からの要望もあり、ロボットやデバイスなど、テクノロジーの社会実装を産官学連携で進める役割を担っています。例えば、テクノロジーを必要としている病院や施設と、実用化に向けて開発した技術やロボットなどを現場で試したいというメーカーや研究機関のマッチングをおこなっています。これは新しい技術の社会実装を進める上でとても意義があると感じています。

(解説)
藤田医科大学病院は、厚生労働省の「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム構築事業」や、愛知県の「介護・リハビリ支援ロボット活用促進事業」を受託してこれらの活動を実践している。また、2020年度は「あいちロボットショーケース」事業(現:AICHI ROBOT TRANSFORMATION)にも参画、院内でヒト型ロボットによる消毒作業や、自動運転可能な搬送ロボットによる薬や検体の自動配達作業や消毒作業、追従モビリティなどの実証実験の場を提供した。ロボット開発メーカーにとっては、実際の病院で実証実験を行い、課題の洗い出しや社会実装に必要な機能を確認する貴重な機会となった。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

同院にて人型ロボット「Aeolus」(丸文)が除菌をおこなう様子(2020年度「あいちロボットショーケース」事業)

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

同院にて自動運転の搬送ロボット「AISLE」(シンテックホズミ)が薬や検体の入ったコンテナを搬送する実証実験の様子(2020年度「あいちロボットショーケース」事業) 

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

「多用途搬送サービスロボットシステム」(三菱電機)とスマートシティ・ビル「IoTプラットフォーム Ville-feuille」が接続することで、エレベータや入退室管理システムなどとも連携できる(2020年度「あいちロボットショーケース」事業)

編集部
「あいちロボットショーケース」事業で実証実験を行ったロボット達の評価はどうでしたか。

大高先生
病院側のニーズに対して、満足いく働きをしてくれたロボットと、実装に向けてまだ改良の余地があるロボットが両方ある印象でした。ただし全般的には、実施前の予想よりも活用できる可能性があるロボットが多いと感じました。事前のプレゼンテーションやデモ動画ではわからない、実際の現場でやってみるからこそわかる課題や利点があります。

学術研究所先端知能・ロボット研究センターではキッチンやリビングを模した環境が設置されている

「あいちロボットショーケース」事業、自動搬送ロボットの前で報道陣のインタビューに答える大高センター長(左)

ロボットを社会実装するためのポイント

編集部
病院側から見てロボットの社会実装についてのポイントはどんな点でしょうか。

大高先生
病院に限らず、介護施設や住宅においても同様ですが、「ロボットありきではなく、日常や業務の中にロボットを位置づけ、どのように人と協業して連携するか」が最大のポイントです。いわば、現実の業務フローや生活フローにロボットがフィットする必要があります。

編集部
なるほど。その意味では病院内でロボットによる自動化が早期に実現できそうだと感じる仕事はなんでしょうか?

大高先生
薬、検体、食事など病院内ではモノを運ぶ作業が多いのが実状です。人の代わりにモノを運ぶ位置づけが確立できれば実装は早期に実現しそうですね。また、院内での患者自身の移動手段(モビリティ)も重要です。搬送ロボットとモビリティの実証実験が急速に進められていることを見ても、実装が比較的近いと感じています。

編集部
コミュニケーションロボットについてはどう思いますか。

大高先生
医療現場よりは介護現場で、会話ができるロボットのニーズがあります。高齢者との会話の実験が進められていて、当センターでも研究をおこなっています。ただ、デジタルデバイスを使いこなせる人たちにとっては会話ロボットも活用の可能性が高いものの、高齢者や認知機能が低下している方の話しをロボットやAIが正確に聞き取って認識することはまだまだ今の技術では難しい。ただ、選択肢としてはあり得ると考えていますので、今後もトライアルを続けていきたいです。

編集部
介護士を支援する装着型ロボットはどうでしょうか。

大高先生
介護士は、高齢者や障がい者など要介護者がベッドから起きるのを手伝ったり、入浴の手伝いをしたりするなど、足腰に負担がかかる作業が多くあります。足や腰に装着して介護者のいわゆる力作業を支援するのが装着型介護支援ロボットです。同じ動作の力仕事を繰り返す業務であればすぐにでも活用できそうですが、介護士は多様な作業をおこなっているため、力作業の時だけロボットを保管場所まで取りに行ったり、装着したりする時間や手間、労力がかかるという課題があります。その点が導入が難しい一面であり、改善していくことが重要だと感じています。ICT技術全般で見れば、IoTやAIなどの技術は、介護の現場で確実に活用され始めている一方で、物理的に介護士を支援するロボットはまだ改良すべき点があり、普及が進んでいないのが実状です。

編集部
介護現場にはいろいろな作業があると思いますが、どのような作業がロボットによって自動化されることが将来的に期待されているでしょうか。

大高先生
要介護者の排泄を自動で助けてくれるロボットでしょうね。介護士にとって身体的/精神的に負担が大きい作業ですし、要介護者にとっても自動化されれば心理的な負担の軽減になると思います。しかし、まだそのようなロボットは登場していません。

コロナ禍で遠隔リハビリシステムを導入

編集部
コロナ禍で医療現場はどのように変わり、ICT技術をどのように活用していますか。

大高先生
報道されているとおり、医療現場全般がコロナ禍で大きな影響を受け、変革が迫られています。リハビリ分野も通常は安全管理が徹底されている医療現場のひとつですが、感染防止という観点から見ると、医師やスタッフがリハビリスペースに集まり、患者さんに密着して治療にあたるなど、注意が必要な分野であることを再認識しました。そこでコロナ禍でも感染リスクを避けて治療をおこなうために、遠隔リハビリシステムを構築して導入しています。
元々は、地域の高齢者向けに開発していた、動画等を使って健康体操等を促進するシステムをリハビリ現場向けに応用したものです。心拍や酸素飽和度等をモニタできるシステムと一般のビデオ会議システムを連動し、治療に有効な体操や運動の動画を流して、声がけしながらリハビリの運動をして経過を確認するしくみです。

遠隔リハビリシステムのイメージ図と画面例

編集部
医療現場から、ロボットやAIなどテクノロジーに期待することを教えてください。

大高先生
当センターの最近の取り組みの一例として、電子カルテの記載内容をAIが学習し、解析・マイニングするシステムを、企業との共同開発で進めています。膨大な情報を蓄積し、ビッグデータをAIが解析することで新しい治療方法を探るなど、医療現場でのICT技術の活用については「可能性の宝庫」だと考えています。
手術支援ロボットやリハビリロボットが既に現場で活躍しているのは紹介した通りです。また、治療以外でも病院全般のサービスのオートメーション化も進められています。 社会は長寿高齢化が進み、ただ「生きる」というだけではなく「健康に生きる」というフェーズに変わってきています。社会の変革に対して、医療の現場もテクノロジーで応えていく必要があります。私の所感ですが、医療はX線やCT、MRIなど、テクノロジーの進化や発明、イノベーションによって大きく進歩してきました。同様にこれからは、AIやIoT、ロボットなどのテクノロジーによって医療が大きく変わる時を迎えていると感じています。
ロボカップアジアパシフィック2021あいちのイベント会場でも、ロボティックスマートホームやヘルスケア分野などで、ICT技術が活用されていく未来の一端が見られると思います。ロボカップのような国際的な大会を通じて、AIやロボットの役割や進歩が、一般の方にも広く知られることに期待しています。